生物物理若手の会夏の学校2016に行ってみた Part3
9/4(三日目)
午前と午後,それぞれ分科会が2つ用意されていて,私はひたすら,よりタンパク質について触れられていそうな方を選んだ.
今となっては,敢えて細胞や遺伝子の方に行って専門外ながらに勉強してくるのもありだったかなと思う.
午前 分科会A
ユニークな巨大生体高分子・組織の研究 ~放射光構造生物学の最前線~(関西支部)
・高輝度光科学研究センター 岩本裕之先生の講演
「高速X線回折ムービー記録による昆虫飛翔筋動作機構の解明」
私の大学では馴染みのある研究手法と先生だった(多分).
昆虫が飛ぶ時に使う筋肉である飛翔筋と,我々の筋肉の動作機構の違いについて新鮮な話が聞けた.
かつて,昆虫飛翔筋の伸長メカニズムについては2つの仮説
マッチ-ミスマッチ仮説:伸長による活性化はアクチンとミオシンの位置のみで決まる
調節タンパク質仮説:伸長による活性化はトロポニンとトロポミオシンの量で決まる
が提唱されていた.
後者は既に誤りと分かっている.
高速X線回折ムービーにより,生きた昆虫で筋の動きを見ることに成功した.
現在は,ミオシンが引っ張られる(変形を受ける)ことにより伸長による活性化が起こるのではないか,ということを研究しているらしい.
私にとってX線解析は,タンパク質の結晶などにのみ照射して,静的なスナップショットを撮るだけの手法のように感じていたが,このように動的かつマクロな観察もできるというのは新鮮だった.
・北海道大学 加藤公児先生の講演
「巨大生体分子の構造生物学:超分子複合体を見る」
構造生物学について,初学者にも分かりやすいイントロがあった.
後半,巨大分子ヘモシアニン(4MDa)の形成機構の解明についてのお話が印象的だった. 5回転対称性を用いた位相改良が功を奏したらしい.
一見,特に変哲の無いことに見えるが,巨大分子ともなると分子内の対称性(多い)を活かして(操って?)構造や機能を調べるのは骨の折れる作業だと思った.
一方,余談として紹介のあった,海外ポスドクへの道~4 ways~も大変参考になった(記述略).
・フリータイム
昼食は,札幌ラーメンを食べた. トウモロコシがふんだんに入っていて,乗せてあるバターに負けないコクのあるつゆと,つゆに絡みやすい程よいこしの麺が最高だった.
豚丼も主力の1つにしている店であり,チャーシューもそれ自体の完成度が高く,美味しかった.
観光地にも,こういう本格的なお店はあるのだなあと感動した.
食後は,支笏湖を少しだけ周遊. ツイッターのフォロワーさんを特定することができて,興味も近いことが分かり,話し込んだりした.
会場に戻る直前,揚げ芋を食べた. ラーメンによる満腹感を無視して詰め込んだが,ホクホクで,味付け無しの本来のジャガイモの味が身にしみて美味しかった.
私は,このようにしてフリータイムをほぼお一人様(トトロが一緒だもん!)で十二分に楽しんだ.
午後 分科会C
タンパク質デザインと生物物理の最前線(関東支部)
・分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 古賀信康先生
「タンパク質分子デザイン:ゼロからの創製と自然界のタンパク質の改造」
タンパク質デザインは,この夏学に来てほぼ初めて触れ,興味を持ち始めた領域である.
タンパク質デザインの考え方で興味をひいたものを書いておく.
― 理想のタンパク質構造決定には,整合性原理が満たされることを確認しながら行う.
整合性原理:局所および非局所相互作用が整合してフォールディング後の構造を安定化するしくみ
ただし,機能部位は満たさないこともあるらしい(それはそうだろうな感).
― 二次構造パターン(局所)と三次構造モチーフ(非局所)に関する整合性から,デザイン仮説が生まれた.
デザイン仮説:整合した局所および非局所相互作用がファネル型エネルギー地形になるというもの
この講演の後,部屋に戻って寝てました...
後半の講演後のパネルディスカッションの時間に,こっそり会場へ戻りました.
・夕食
本場のジンギスカンを食した.
臭みが少なく,マッチした野菜やタレが用意され,美味しかった.
全体的に量は多い中,野菜に対してラム肉が多いという「若手向け(?)」配慮も嬉しかった.
私が関西で食べたジンギスカンは臭みの塊だったが,あれは一体何だったのだろうか...
・先生方による論文紹介
九州大学 水野先生
紹介された論文はこれ
"Matrix Elasticity Directs Stem Cell Lineage Specification"
Adam J. Engler, et al., 2006
ソフトマターの専門家の方らしく,力学的に分かりやすい説明だった.
・ポスターセッション&懇親会
最初に某野獣先輩の近くに腰掛けてしまったことが災い(幸い?)して,2時近くまで,アラサーの会(顔がアラサーだから強制参加),Twitterの会,ホモォの会,などなどに参加.
三若手代表の記念撮影に,何故か数学方面代表として組み込まれたり,色々カオスでした.
なんだかんだ言って,この日の懇親会が最も思い出になりました.
三日目おしまい.
生物物理若手の会夏の学校2016に行ってみた Part2
9/3(二日目)
・早稲田大学 木賀大介先生の講演
「生命は人工合成できるか ―『細胞』は人工合成できるらしい」
遺伝子回路を力学系モデルによって解釈することは,よく見かける話だが,それの詳細や,実際の生体データとの適合状況などが聞けて良かった.
サブシステムを構成して上位システムを安定させることは,モデルと現実の系を一致させることは,ノイズが入りすぎていて難航しているらしい.
力学系モデルにおけるノイズの取り扱いは,ポスター発表でも誰かに聞いた気がするが,今後の合成生物学において重要な課題になってきそうだ.
・大阪大学 原田慶恵先生の講演
「からだの中の分子のはたらき」
...記憶が曖昧(多分スヤアしてた).
Force-Velocity Relationshipがミカエリスメンテン式と組み合せることが可能と聞いて,まあそうだろうなあと思いながらも,具体的な計算法が思い浮かばなかったので,後で調べたい.
現在は,細胞内の温度を計測しているらしく,その結果が通常の熱拡散に従わず,エネルギー的におかしいのでは?という問題があるらしい.
これは,非平衡でやっつけれたりするのかな?
光ピンセットは,2点を動かす実験系しか知らないが,将来的には3点以上も可能になるのだろうか?
・東京大学 佐野雅己先生の講演
「生命現象における普遍性とは何か?」
形態形成は,非線形・非平衡でよく扱われる現象であり,その整理にもなるお話が聞けた.
新たに興味を持ったのは,細胞が密集しても配向を自主的に揃えるが,特異点ノードでは向きが決まらず細胞が集まるという現象がある(Topological Defects)というお話だった.
植物の生長点においても見られるらしいが,その他の生命現象でもTopological Defectsは起きているように思う.
時間ができたら,これに関して具体例とその数理モデル探しをしてみたい...
生物物理全般的なオススメ本として,Nelsonの"Biological Physics"が紹介された.
これかな?
Biological Physics: Energy, Information, Life
- 作者: Philip Nelson,Marko Radosavljevic,Sarina Bromberg
- 出版社/メーカー: W H Freeman & Co (Sd)
- 発売日: 2007/06/15
- メディア: ペーパーバック
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多分まだ,読んだことがない.気になった.
・グループワーク
交流を兼ねて,7名ずつ程の班に分かれて,これら三つの講演に対しての疑問点や意見を交わしあった.
私たちの班では,ひとまず疑問点を出し合って,自分たちなりに解決していった(特にPDの方のおかげ).
声がはっきり聞こえるのが,周囲3人くらいの環境だったので,私を含めた口うるさい4名程で固まって議論をしてしまっていた時間が多かったように思う.
PDの方に,進路について相談をきいてもらったりもした.
唯一完璧に未消化だったのは,予稿集で原田先生の現在の研究として記載されていた「DNAおりがみとナノ開口という新しい手法を使った1分子イメージングによる真核生物における 転写の制御機構を調べる実験」とはどんなものか?
という疑問だった(KONAMI).
・パネルディスカッション
講演した3名の先生がパネラーとなり,各班の代表が質問や意見をぶつけるというもの.
たしか,私の班を除く3班ほどを回ったところで終了時刻となったが,面白い議論が聞けた.
但し,空腹でメモを取っておらず,記憶も曖昧なので割愛.
・夕食後
女の子たちとお散歩に出かけた.
宿泊先のユースホステルの向かいが,リゾート旅館なのだが,漏れ出てくる光や美味しそうな食事の様子,温泉らしき湯気に羨望の思いを馳せた.もはや別世界の景色.
ポケモンGO勢がとても楽しそうだった.
帰り際に男性散歩勢と合流した際に,女友達(ポケGO勢)が言い放った「なんだ人間か」がしばらくツボにはまった.
まだお酒,入ってないよ.
・先生方による論文紹介
紹介された論文はこれ
Role of the CLOCK Protein in the Mammalian Circadian Mechanism | Science
Nicholas Gekakis, et al., 1998
CLOCKタンパク研究の歴史がきけたように思う(門外漢).
・ポスターセッション&懇親会
さらっと見回って,寝ました.
相変わらず,聞きたいポスターの主に会えないかつ,テーブル席への入り込み方が分からないコミュ障芸をしておりました.
そんなこんなで二日目終了.
生物物理若手の会夏の学校2016に行ってみた Part1
今回,生物物理夏学に初参加した感想を兼ねて,習得事項のまとめをしたいと思う.
※私のアタマが起きていた間に聞いた印象に残った話の抜粋※
9/2(一日目)
・早稲田大学 郡司ペギオ幸夫先生の講演
「『意識とは何か』を理解すること・『生命とは何か』を理解すること」
大きく分けて「生物集団の数理モデル」と「身体の二重性」の2つについて新鮮な解析法を聞いた.
講演中に「(モデルの?)全体が担保されない弱い量子論」や,「最適化と前提解体(量子論的構造)」などと,量子的性質との関連を示唆する表現が出てきたが,そこはどうも納得ができなかった.
数物の後輩が質疑応答で,そのことを突っ込んでいたが,その際の先生の回答も,納得できるものではなかった(後輩も).
しかし,私が生物学に対して持っている,本質的な疑問に関係するので,ペギオ先生の著書や論文を時間があれば読んでみたいと思った.
・フラッシュトーク
MやDの方は言わずもがな,同学年の子でも,研究内容を50秒間という限られた時間内で立派に熱弁していて,驚いた.
B1~B3の参加者のトークは,主に興味のある分野についてで,昔の自分と重なって見えた.
生物物理では,楽しそうなトピックは,実際は大変難しいことが多く,それらに挑もうと勉強中といった感じが懐かしかった(とは言いながらも私は今でもそうかもしれない).
私のトークは,具体的な研究紹介に入る前に,所属と生物物理を専攻するに至った経緯を話すだけで時間がきてしまい,残念だった. 発表練習is daiji.
・ポスターセッション&懇親会
2つほどポスター発表を聞いて,そのうち1つは私と同じようにMDを使った研究だった.
自分の勉強不足を痛感させられ,そのまま疲れて部屋に戻って早く寝た(満足).
2016/08/15 Current State
前回の投稿から100日近く経ってしまった,びおふぃずです.
この間に色々な事がありました.
生物物理関連では,2つ.
まず,大学院の修士課程入試に合格しました.
生物学徒(見習い)を,続けられる見込みが立ちました.
修士課程を修了できたら,「マスター」ですので「見習い」は卒業できるのでしょうか.
いや,生涯,「見習い」であり続けてしまいそうで怖いですね.(論文書きまくらねば)
二つ目は,生物物理若手の会夏の学校に申込みました.
参考URL
http://bpwakate.net/summer2016/
OB曰く「ゆるい」そうです.
なかなか雰囲気に馴染めなかった,ゆるふわ某春学を彷彿とさせますね...
一抹の不安がぬぐい去れませんが,普段の閉鎖的な研究環境から脱出して,交流を深める良い機会であることは間違いないかと.
楽しみです.
今回は,体調や進捗が悪く,ポスター発表等はできませんが,生物物理に関する知識をなるべく強固にして,講演に対しては質問を準備して,臨みたいと思います.
近況はこんな感じでしょうか.
次の記事では,もう少し生産的な内容にできるよう努めます.
びおふぃず@和算の本と格闘中